新事業を始める際、必要なのが業界分析。
参入する業界について知らなければ「どれくらい儲かるのか」も不透明になってしまいます。具体的な数字に落とし込む作業は、ビジネスを成功させる上でとても重要なのです。
今回紹介するファイブフォース分析は、業界分析に最適なフレームワーク。
しかし、ファイブフォース分析に慣れていないと、どうしても自分よがりな結果になってしまいがちです。フレームワークをビジネスに活用するには、正しいやり方の理解が欠かせません。
本記事では、ファイブフォース分析のやり方を事例付きで解説します。
ファイブフォース分析は業界を俯瞰できるフレームワーク
ファイブフォース分析とは、業界に存在する5つの脅威をもとに、事業や企業戦略を分析するフレームワークです。
1979年に経済学者のマイケル・E・ポーター著「競争の戦略」の中で紹介したのがキッカケでした。40年以上前に誕生したフレームワークで、今でも使われることがあります。
ファイブフォース分析は以下5つの要因を分析します。
- 購入者の交渉力
- 販売者の交渉力
- 競合他社の競争力
- 新規参入の脅威
- 代替商品の脅威
シンプルな5つの要素ですが、業界を形成する重要なポイントを含んでいることが分かるでしょう。
別名「業界分析」とも言われるファイブフォース分析は、業界を俯瞰できるフレームワークになっています。
ファイブフォース分析をする理由
ファイブフォース分析をする理由は、以下2つに集約されます。
- 業界の収益性の高さはどれくらいか
- 業界内で自社がどれくらい利益を取れるか
上記2つのポイントを明確にする際に便利なフレームワークです。そもそもファイブフォース分析は、とてもシンプルな思想からなっています。
- 業界の競争率が激しい → 自社の収益性は低い
- 業界の競争率が少ない → 自社の収益性は高い
この問題を明確にしていくと、業界を俯瞰的に把握できるという仕組みです。
分析の結果「この業界には参入しない方が良い」や「制作コストを見直して参入しよう」などのアイデアが生まれてくるでしょう。
意思決定するための判断材料を集めるのが、ファイブフォース分析の役割になります。
ファイブフォース分析の活用シーン
ファイブフォース分析は、意思決定をする前に使われるフレームワークとして、SWOT分析と併用されるケースも珍しくありません。
SWOT分析は、自社の外部・内部環境の強みと弱みを把握するフレームワークです。ファイブフォース分析と併用することで、双方にとってより詳細な分析が可能になります。
3C分析を行う時に活用されることも多いです。顧客要素を分析する際のミクロの視点では、ファイブフォース分析を用いて業界の構造を理解していきます。
業界全体を把握したい時は、ファイブフォース分析を活用すると良いでしょう。

ファイブフォース分析のやり方
ファイブフォース分析の具体的なやり方を解説します。
- 購入者の交渉力
- 販売者の交渉力
- 競合他社の競争力
- 新規参入の脅威
- 代替商品の脅威
購入者の交渉力
購入者の交渉力は、以下の要素を分析します。
- 需要と供給のバランス
- 差別化のしやすさ
- 価格設定の自由度
- 大企業の独占状況
需要と供給のバランス
例えば、供給過多になっている場合、販売数は減るでしょう。だからこそ、現在の需要と供給のバランスを的確に把握する必要があります。
差別化のしやすさ
差別化しやすい商品は、似ている商品と価格競争になりやすいです。購入者はより安い商品にスイッチします。価格競争になることを前提にするのか、差別化して長期で販売したいのかなどを分析しましょう。
価格設定の自由度
例えば、理容室は業界全体で価格設定に縛りがあるため、店舗による価格差が生じにくいです。価格の縛りがない場合、自ら価格競争を起こす企業が必ず現れます。業界が価格設定に対して、どのような姿勢なのか明確にしましょう。
大企業の独占状況
もしも少ない需要の中で、すでにいくつかの大企業が独占していると、価格競争になります。なぜなら、大企業同士が供給過多の業界内で顧客を奪い合うからです。
このような要素を分析して、購入者の交渉力を明確にしておきましょう。
販売者の交渉力
販売者の交渉力では、以下の要素を分析します。
- 原材料の需要と供給のバランス
- 特別な素材を使っているか
- 仕入れコストを比較しやすいか
- 原材料の需要と供給のバランス
業界全体で原材料の供給が追いついていなければ、価値が高まり仕入れコストは上がります。商品を作る場合に必ず考慮しなければならないポイントです。
特別な素材を使っているか
商品に特別な素材を使っている場合、その素材を扱っている企業は高値で販売するでしょう。なぜなら、販売者からすると競合と差別化した商品を販売できているからです。
自社商品の差別化のために特別な素材を選択したものの、結果的に素材の仕入先に利益が流れてしまうケースも。素材の選択にも注意が必要です。
仕入れコストを比較しやすいか
特別な素材で、かつクローズドな状況でしか価格を公表しない販売者の場合、高い値段になる傾向があります。他社比較しづらい状況を作ることで、自社への依存度を上げているのです。
仕入れコストを最小限にしたい時は、汎用性が高く入手しやすい素材を使います。
販売者と自社のパワーバランスを明確にして、仕入れに関する取捨選択をしましょう。
競合他社の競争力
競合他社の競争力は、以下のような要素を分析します。
- 競合他社の数
- ランニングコストの高さ
- 撤退しやすい業界か
競合他社の数
まず、競合他社の数が多いほど、自社の利益は少なくなる傾向にあります。どんなに大きな業界でも、競合が増えれば取り分が減ってしまうからです。競合の数をチェックして、参入した際の見込利益を分析しましょう。
ランニングコストの高さ
ランニングコストが高いほど、たくさん商品を売らなければもとが取れなくなります。資金力がない企業は、大手に力負けする可能性も高いです。参入するべきかを判断する重要な要素と言えます。
撤退しやすい業界か
業界の傾向として撤退しにくい場合、そうでない業界と比較してトータルの利益が減りやすいです。資金繰りができずに「撤退費が払えないから赤字で経営」というシナリオもありえます。
高額な初期投資が必要な業界や、社会的に認知度や地域への貢献度が高い業界は撤退しづらいです。
例えば、地域密着型の企業が「廃業します」と言えば、従業員や近所の人から抗議されるかもしれません。なぜなら、企業があったおかげで生活できていた人がたくさんいるからです。
競合の数はもちろん、ランニングコストや撤退しやすいかなど、多角的に分析してみてください。
新規参入の脅威
新規参入の脅威は、以下の要素を分析しましょう。
- ルールに縛られていないか
- 真似しやすさ
- 販売チャネルの作りやすさ
ルールに縛られていないか
業界自体の法規制やルールが厳しい場合、新規参入しにくいと言えます。製薬業界は新規参入しづらい良い例です。逆にIT業界は歴史が浅いため、ルールも厳しくありません。
一般的に自由度が高いほど参入しやすいですが、競合も増えやすいため不安定になりやすいと言えます。
真似しやすさ
商品自体が真似しやすければ、新規参入する企業も増えやすいです。製造方法、素材、マーケティング方法などで差別化ポイントを検討しましょう。
「真似しやすい商品」は、資金力のある大企業に軍配が上がります。なぜなら大量生産により単価コストを下げられるからです。新規参入する際は、ユニークポイントを明確にしましょう。
販売チャネルの作りやすさ
商品を販売する場所の作りやすさも重要です。販路をかんたんに作れる場合、新規参入者は増えます。
無料会員登録のみで商品を出品できるメルカリと、現実世界のフリーマーケットでは「参入しやすさ」が全く違いますよね。「どんな販路があるか」と「その販路で売るための障壁」をチェックしてみましょう。
新規参入しやすいかはメリットでありデメリットにもなります。
各要素をフラットかつ冷静に分析しましょう。
代替商品の脅威
代替商品の脅威は、以下の要素を分析します。
- 代替商品のバリエーション
- 代替商品の安さ
- 代替商品を扱う企業の規模
代替商品のバリエーション
代替商品の選択肢が豊富な場合、比較対象がたくさんあるため価格が下がりやすいです。
「立ち食いそば」を例に代替商品の例を見てみましょう。
<例>「立ち食いそば」の代替商品 | |
代替商品 | 代替の理由 |
牛丼 | 速い、安い、駅チカ |
ファストフード | 速い、安い、駅チカ |
コンビニ | 駅チカ、速い |
代替商品には、飲食店以外にコンビニなども含まれます。
メインの「食事」という目的以外にも、場所や価格帯なども商品やサービスを利用する価値になるでしょう。顧客が感じる価値を視点に、代替商品のバリエーションをリストアップしてみてください。
代替商品自体の数はもちろんですが、価値のバリエーションを把握しておくことも非常に大切です。
代替商品の安さ
代替商品が自社商品より安ければ、競合に負けてしまう原因になるでしょう。
前述した通り、真似されやすい商品になるほど安い商品が選ばれやすいです。機能や所有感に変わりがないのなら、より安い商品を選ぶのは当然と言えます。
最安商品と最高値の商品を比較し、各競合の値段設定について理解を深めましょう。自社の戦略を立てる際の参考になります。
代替商品を扱う企業の規模
代替商品を扱う企業が大企業の場合、自社の利益は減りやすいです。
大企業は宣伝費をかけて認知度を高めたり、大量生産で単価を下げることもできます。どんな企業が代替商品を扱っているかチェックしてみてください。
ファイブフォース分析の成功事例
ファイブフォース分析の1つの事例として、スポーツアパレルブランド「Under Armour(アンダーアーマー)」を取り上げてみました。各項目を見ていきましょう。
購入者の交渉力
卸業者は競合の商品と比較して、より利益率の高いものを選べます。契約条件や価格は、卸業者が有利になりやすいです。
ブランドの知名度が高いアンダーアーマーは、小売店に対する交渉力が高くなります。
一般的なアパレルブランドと同じ構図です。
販売者の交渉力
アンダーアーマーの商品の素材の仕入れや製造などは、できる限り分散させることで、販売者の交渉力を低く保っています。
トラブルが起きた際も、極力生産をストップさせない秘訣にもなっているそうです。
競合他社の競争力
すでにナイキとアディダスという2つの巨大ブランドが存在します。
デザインの特許もできていないアンダーアーマーにとって、商品をコピーされるリスクもありました。
新規参入の脅威
大きな競合がいるものの、新規参入の脅威はそこまでありません。
なぜなら、スポーツブランドには宣伝、ブランディング、需要の創出など多額のコストがかかるからです。すでに参入している企業以外は、競合の脅威もないと分析しました。
代替商品の脅威
代替商品はたくさんあるものの、それ以上に需要が増えると予想。
アンダーアーマーブランドを脅かす商品はないと考えました。分析を行った結果、アンダーアーマーはブランド力を高めると決断し、現在に至ります。ナイキやアディダスにも引けを取らないスポーツブランドになりました。
ファイブフォース分析をしたことで、自社のポジションを明確化できた良い例と言えるでしょう。
こちらで使っているテンプレートは無料でダウンロードできますので、ぜひ活用してください。
ファイブフォース分析で注意するべきポイント
ファイブフォース分析を行う上で、注意するべきポイントをまとめました。
- 戦略立案には使えない
- フィットしないビジネスもある
- フラットに分析結果を見る
戦略立案には使えない
ファイブフォース分析は、意思決定するためのフレームワークではありません。
戦略を立てる際の1つの材料として、ファイブフォース分析を取り入れるのがおすすめです。業界や収益の構造を知るためのツールであると考えましょう。
フィットしないビジネスもある
事業や業界によっては、ファイブフォース分析がフィットしない可能性があります。
1979年に考案されたフレームワークは、競合と椅子取りゲームをするのが普通でした。しかし、現在では新しい価値の提供やライバル企業とコラボする機会も増えています。
全てのシーンで使えるフレームワークではないので、目的に合った使い方をしましょう。
フラットに分析結果を見る
分析結果に対して感情移入するのは良くありません。
ネガティブな視点に立てば、どの業界に参入するのも不可能に感じます。ポジティブな視点に立てば、自分よがりな分析になりがちです。
分析結果はデータとして参照することを心がけましょう。
まとめ
ファイブフォース分析は、業界を冷静に俯瞰して、収益性をチェックできるフレームワークです。
- 購入者の交渉力
- 販売者の交渉力
- 競合他社の競争力
- 新規参入の脅威
- 代替商品の脅威
上記の要素を分析することで、参入する価値のある業界を見つけやすくなります。
新しい業界や商品を作る際、現状を把握することはとても重要です。業界の今を知れば、そこでビジネスをする意味や価値が分かってきます。ファイブフォース分析を行う際は、フラットな気持ちでデータと向き合うことも忘れないでください。
業界分析とも言われるファイブフォース分析を活用して、収益性の高い業界を見つけ出しましょう。